大会長挨拶

第26回日本CT検診学会学術集会 大会長 名和 健 第26回日本CT検診学会学術集会 大会長
株式会社日立製作所日立総合病院
名和 健

平成31年2月8日(金)と2月9日(土)の両日、日立シビックセンターにおいて第26回日本CT検診学会学術集会を開催させていただくこととなりました。大変光栄に存じますとともに、この機会を与えて下さいました会員・学会役員はじめ関係される皆様に深く御礼申し上げます。

肺がんによる死亡を有意に減少させるには、まずタバコ対策が必須であることは論を待ちません。しかしながら喫煙者の減少に伴うリスクの低下には長い時間を要するため、この間は早期発見と治療が唯一の手段となります。世界の情勢に目を向けますと、米国では平成27年から公的保険による低線量(低被ばく)CTを用いた肺がん検診(低線量CT検診)が開始され、現在はどのように普及させるかが課題となっています。さらに、平成30年の世界肺癌学会総会において欧州で行われた最大の無作為化比較試験であるNELSON研究の結果としてCT検診による肺がん死亡低減が報告されました。ヘビースモーカーなど高危険群を対象とした低線量CT検診は欧米を中心に広く行われる機運が高まっています。

一方、日本では非喫煙者やライトスモーカーの肺がん、あるいは受動喫煙も重要な問題であり、ヘビースモーカー以外にも低線量CT検診の効果が期待されています。これらの方々に生じる肺がんの多くは比較的ゆっくり増大する腺がんであるため、過剰な検査や治療を避けながら効果を上げる方法を明らかにしていく必要があります。国内で進行中の無作為化比較試験(JECS研究)の進捗に期待するところですが、この研究の成果が判明するにはまだ長い時間が必要です。わが国における低線量CT検診は四半世紀の歴史があり、年間数十万件の検診が行われています。我々は他力本願になることなく、自らのデータに基づいて最適な検診の対象や方法を考える必要があります。すでに普及が進んでいることを前向きにとらえ、検診のメリットを最大に、またデメリットを最小にする努力を続けることが重要と考えます。

本学会のもう一つの柱である大腸CT検査は平成24年に診断目的で保険適応となった以降は多くの施設で実施され、すでに検診、精密検査、術前検査など多彩な場面で行われています。便潜血2日法による大腸がん検診の問題点として精密検査に至らないことが挙げられており、この検査が普及することは大腸がんの早期発見に寄与しうると期待されるところです。

今回の学術集会における主な企画について述べます。まず、低線量CT検診が地域、職域、人間ドックなどさまざまな場面で行われている現状を鑑み、主シンポジウムとして検診の実務に焦点を当てた「CT検診のGood Practice」を企画しました。有効性評価の議論から一歩前に進み、「現場でどう行うか」を考え、討議する場になれば幸いです。

検診画像から得られる情報は極めて多く、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など生活習慣病のリスク評価への活用が有望視されています。この点について「生活習慣病とCT検診」と題したシンポジウムを企画しました。また、肺がん以外に指摘される所見(肺気腫性変化、縦隔病変、抗酸菌症、稀な肺疾患)にどのように対応すべきか、現時点の知見を共有するワークショップを開催する予定です。

平成30年5月に厚生労働省より「医療放射線の安全管理に関する報告書案」が公表されました。被ばく線量の記録や受診者への提供、また適切な説明など、検診現場でも対応を考える必要があります。本学術集会では「医療放射線の適正管理に向けて」と題したシンポジウムを企画し、皆様のご理解や行動の助けになればと考えています。

大腸CTについて、CTC部会のご協力のもと第20回学術集会で実施されたハンズオンセミナーを再度計画しています。詳細はホームページ上で逐次お知らせするようにいたします。

これらの企画に加え、例年同様に幅広い内容の一般演題を募集いたします。今回は低線量CT検診を契機に発見された稀な病態や診断に苦慮した例など、症例報告や臨床的内容を含め多くの演題を応募いただきたくお願い申し上げます。

大会二日目の午後に市民公開講座を予定しました。日立市は本邦で最も低線量CT検診が普及している地域の一つですが、実際には検診だけで肺がんをはじめとした呼吸器の病気のすべてに対処することはできません。市民の皆様に向け、肺がんの診断や治療のみならず呼吸器の病気と栄養、またタバコの問題を共に考える内容を計画しています。

本学会は低線量CT検診や大腸CTに携わるさまざまな職種や立場の人が一堂に会する貴重な機会です。学術集会に参加されるすべての人にとって何らかの役立つ情報を提供できること、また、学会場における建設的な討議が明日からの実務や研究に向けた活力の一助となることを願っています。

会場となる茨城県日立市は関東平野の北端にあり、西は阿武隈山系、東は太平洋に面した穏やかな気候が特徴の街です。常磐線は上野東京ラインの開通により品川・東京方面からのアクセスも改善されており、平成26年に国際デザインコンペティション「第12回ブルネル賞駅舎部門・優秀賞」を受賞した日立駅から望む海の景色も楽しんでいただければと思います。日立市の後援のもと、学会事務局、大会事務局あげて皆様をお迎えする準備を進めてまいります。ご参加をお待ちしています。