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飯沼武名誉会員を悼んで

飯沼武名誉会員
(飯沼武先生)

(公財)東京都予防医学協会
金子昌弘

 本学会の飯沼武名誉会員におかれましては2024年8月29日に90歳にて、ご自宅にて老衰のため帰天されました。ここに慎んで心から哀悼の誠をささげます。

 先生のご自宅の近くに私も住んでいたことが有りましたので、会議の帰途など何度かご一緒させていただいたことが有り、その途上で放射線に関する貴重なお話とともに、先生は大変に熱心なカトリック信者で、日曜日には必ず近くのサレジオ教会の礼拝に参加されている、と話されていたのを昨日のことのように思い出されます。

 飯沼先生は 故舘野名誉会長の片腕として、本学会の設立に最も貢献された方のお一人で、先生なくしてこの学会(当初は胸部CT検診研究会)の発足はなかったと言っても過言ではありません。この間の経過に関しては先生ご自身が本学会の30周年記念誌に記されておりますので、ぜひご覧になっていただきたいと存じます。

 先生は東京大学工学部応用物理学科を1956年にご卒業後、同大学工学部助手を経て、1958年から現在の量子科学技術研究開発機構(QST)の前身である放射線医学総合研究所に勤務され、一貫して放射線機器の開発や放射線被曝の影響等に関する研究に携わり、1960年から2年間英国留学もされていらっしゃいます。放射線医学研究所では舘野名誉会長とともに、超高速CTの開発にも取り組まれました。その後、CTでの肺がん検診の方法の確立のため多くの研究グループに働きかけ、CT検診に関する諸問題を中心的に議論する場として胸部CT検診研究会の発足に多大な努力をされました。

 先生のご専門は放射線物理ですが、肺がん検診自体にも大変に関心をお寄せになり、その有効性の評価方法にもいろいろ研究を重ねてこられました。特に肺がんCT検診に関して、大規模なRCTを行わなくても、有効性を証明できる方法は無いかと苦心され、先生独自の方法を提案されました。これは、検診により発見された肺がんの病期別の人数に、各病期での5年生存率を掛け、その和を出すことにより、検診発見肺がん全体の死亡数を推定し、そのグループに検診を行わなかった場合の推定される死亡数と比較して、検診の有効性を評価するという方法です。

 先生は日本のデータだけではなく、欧米の研究グループの責任者にもメールで詳細なデータを取り寄せて、日本での検診のデータとの比較や、検診間発見肺がんの推定方法なども提案され、亡くなる直前までいろいろな試算を繰り返し、関係する内外の研究者に資料を送り批判を仰いでおりました。生涯を一研究者としての姿勢を貫いてこられた姿勢に心から敬服いたします。

 先生の謦咳に直接接することはかなわぬこととなってしまいましたが、今後も先生の御遺志をついで、よりよいCT検診の実現に向けて会員一同努力していく所存ですのでどうぞ天国から暖かくお見守りください。

合掌